ガントレット



 アメリカからやって来たその大きな箱は、ぼく達の貴重な百円玉を際限なくそのスロットに吸い込んで行った(しかも四人分まとめて!)。ぼく達はその箱を「巨大な貯金箱」と半ばバカにした呼び方をしていたが、それでも取り憑かれたように「貯金」をし続けたものだった。いま思えばあの箱は、「ガントレット教」の神社の賽銭箱だったのかも知れない。そして、あの頃のぼく達は敬謙な信者だったに違いない…。

 アタリ「ガントレット」は、当時ようやく日本でも認知し始められた西洋のファンタジー世界を舞台にした、アクションゲーム。四人まで同時プレイできる大型のアップライト筐体は、「大きいことはいいことだ」といわんばかりのアメリカ的発想を体現しているかのよう。キャラクターは、4人…屈強なバーバリアンの戦士、力と知性を合わせ持った女戦士(ヴァルキリー)、威力絶大な魔法を操る魔導師(ウィザード)、そして逃げ足の素早いエルフ。その選択も、使いたいキャラのコンパネの前に立つ、という画期的なものだった。
 無論、どのキャラを使ってもゲームを楽しむことはできる。が、4人同時プレイの楽しさは単独プレイの比ではない。打たれ強い戦士や攻撃力の高い魔導師を前面に魔物の群れをなぎ払い、苦労して開けたスキマを縫ってチョコマカと宝を奪うエルフの狡猾さと言ったら!協力プレイを前提にした駆け引きの面白さが、そこにはあった。
 このゲームの目的を見つけるのは難しい。待ち構える巨大な悪も無ければ、脱出すべきゴールも無い。世界を悪から守ったり、誰かを救出して見られるエンディングすら無いのだ。ただあるのは、限りなく続くと思われる迷宮と、あちこちに散在する宝の箱、そして探索者を冥土に導く黄泉の者達。わずかに転がっているアイテムは、食料と魔法薬と不可視のお守り。消える壁、壊れる壁、鍵で開く壁。そして、ワープポイント。それらは時には冒険者を助け、時には惑わせ、そしてしばしば死へと誘う。
 冒険者達の命を狙う魔物達も、6種類と少ない。しかし、最も厄介な「デス」を除けば、あとの魔物達は「ジェネレーター」と呼ばれる「巣」から際限無く生まれ、またたく間に迷宮を埋め尽くす。冒険者達にとっては、時間も魔物と同様…いやむしろそれ以上に恐るべき敵だ。迷宮の中では体力が刻一刻と減って行く。落ちている食糧を取って体力を維持するか、クレジットを追加して体力を「買う」しかない。こうしてぼくたちは、いつ果てるか知れない探索の旅を続けるために、次々にコインを投入したものだった。

 さて、メガドライブ版『ガントレット』はテンゲンが移植を担当した、メガドラ史上に残る名作だ。原作を忠実に再現したアーケードモード、パスワードにより冒険の続きを楽しめるレコードモードに加え、原作の「拡大解釈」とでも言うべきRPG的なクエストモードと、そこで鍛え上げたキャラ同士で対戦できるバトルモードがフィーチャーされている。
 クエストモードは、時を経てシンプルになりすぎたきらいのあるアーケード版に、現代風の味付けを施した逸品だ。『ガントレット』をモチーフにしたと思われるPCエンジンの傑作『ダンジョンエクスプローラー』のアイディアのいくつかを「逆輸入」してきている。RPG的にキャラクターにはパラメータがあり、魔物を倒して得られる経験値によってパラメータを上げ、キャラを「育てる」ことができる。また、アイテムも数多く追加され、迷宮内にはシーフの開く店まであるのだ。
 さらに、迷宮そのものにもさまざまな仕掛けが追加された。踏んでいるとショット攻撃ができなかったり、魔法薬が使えなかったりと効果も様々なタイル。時にはモンスターの攻撃を利用して壁を崩さなくてはならない。各フロアの終了条件は「全てのトラップを解除すること」。このためパズル的な色合いが濃くなった。
 元々、シンプルなSE(効果音)とボイスばかりで、音楽といえばオープニングタイトル程度だったこのゲームだが、メガドライブ版にはかのYmo.HS氏による素晴らしいBGMが追加された。もちろん、原作の雰囲気を満喫したい人のためにBGMを消すこともできるし、ゲーム中のメッセージの日本語・英語を切り替えたりと、オプションの充実も見逃せない。「放っておくといつまでも開発を続けていただろう」という開発チームのこだわりの一端がこんなところにも垣間見られる。
 開発チームと言えば、その技術力も注目に値する。画面を埋め尽くすモンスター達の数は、メガドラのスプライト表示限界を優に超えている。しかし、チラツキや処理落ちはほとんど感じられない。かといってボイスやサウンドがおろそかになるかといえば、こちらもハッキリクッキリ力一杯鳴っている。こうした高い技術力と優れたゲームデザインのセンス、そしてなにより原作に対する深い愛と熱い情熱があって、この作品は移植ではありながらもメガドラ史上に燦然と輝く金字塔であることには間違いない。

 最近になって改めてプレイしてみると、アーケードモードですら巧妙に仕掛けられたパズルであると感じさせられる。モンスターをせき止めている宝箱のどれを取るか、表示範囲を巧く使って大量のモンスターをどう処理するか(モンスターは画面外からは攻撃してこない)、どのジェネレーターは破壊せずにおくべきか(デーモンの吐く弾やロバーの投げる石は敵を倒すのにも使える)等、頭を使った攻略がこのゲームの奥深さを感じさせてくれる。もちろん、力ワザでゲームを進めることも十分可能であるが、「長生き」するためにはマップデザイナーとの「知恵比べ」を試みることをオススメしたい。

( あらP★)


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