俺の名は「カイ・ブーン」。ハリネズミのノーズアートがトレードマークの愛機MD−1と共に銀河系を駆ける、惑星改造屋だ。クラ○シャー? あんなケチな連中と一緒にしないでもらおうか。俺の機体に搭載された最新鋭マシン
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「線で囲んだ場所が住居可能になる」
通称スケベージャックシステムは、どんな不毛の惑星も数時間後には、分譲住宅地として不動産屋のカタログに載せる事も可能だぜ。
いつもの惑星改造とはいえ、今回持ち込まれた惑星「ヴォルフィード」は、少々厄介だ。OHTORI宙域のこの星は、最近オーナーが替わった事で話題になったが、凶悪な生物が棲む事でも知られている。
新オーナーMr.ヤマウチとの契約を交わすため、俺は彼が会長を務める大企業「妊娠堂」を訪れた。俺には理解不能な古代文字「キョートベン」で書かれた契約書に書かれた金額は、俺の口座の不足分を埋めるに充分なものだった。契約内容の打ち合わせもそこそにして、半金を受け取った俺は即座にクレジット会社への振込を済ませた。これでMD−1の差し押さえは、何とか回避できた。
早速必要な機材を調達し、辺境の宙域へ向かう。こんな星が巨額の投資に見合う利益を上げられるとは思えないが、この世に貧富の差が生まれて以来、金持ちの考えは貧乏人には解らない事になっている。何より、彼らの収支決算は俺の守備範囲外だ。
俺は、先ず衛星軌道上から惑星表面をスキャンし、16の仮想フィールドに分割した後、機体をAモード(注1)で作動させた。便宜上[A-1]と名付けたフィールドに降下すると、巨大な生物がむき出しの敵意と共に迎えてくれる。
MD−1は、比較的小型のボディに似合わぬ大出力のジェネレーターを装備しており、その有り余る出力で強力なシールドを展開しているため、通常の状態では、いかなる攻撃も受け付けない。しかしそれは、裏を返せばSKBJKシステムが膨大なエネルギーを必要としているかを示している。惑星を切り取る作業中は、全くの無防備状態に置かれるのだ。
敵の隙を見計らって作業を開始する。突然反転した敵は、火球を吐き出した。間一髪!エリアを切り取ったMD−1は、シールドを回復し次の作業に移る。 この星の生物は、環境の変わったエリアには進入できないが、生存スペースを確保するために、自身のサイズを豆粒大にまで縮小する事が可能だ。しかも攻撃力は変化しない。しかしそんな彼らも、80%(注2)以上のエリアを失うと生存は不可能になる。もちろん後の手間を考えると、99.9%(注3)を一気に切り取った方が効率が良いことは言うまでもない。
だがタイムアップが迫っている。大量のエネルギーを消費するシールドを、一定時間以上展開することは出来ない。先の長さを考えるとここで無理をするのは得策ではないと考え、87%で[A-1]をクリアし、次のフィールドへ向かう。
こうして惑星「ヴォルフィード」から、凶悪な生物は全て駆逐された。だが意気揚々と「妊娠堂」へ向かった俺を迎えたのは、苦虫を数匹まとめて噛み潰したような顔をした顧問弁護士だった。彼の語る所によると、Mr.ヤマウチはこの星を、棲んでいる生物をメインにした一大テーマパークにしようとしていたらしい。生物の捕獲も契約内なのだと言う。俺には読めないとはいえ、契約書がある以上勝ち目はない。違約金の額に呆然とする俺に彼は、これら人好きのしない生物が保護条約の対象だった事を教え、「支払いが終わるまでは司法の追求を躱して戴きたいですな」と結んだ。
俺の名はカイ・ブーン。宇宙一の負債を抱えたお尋ね者だ。
(かいぶん)